虹とギターと吹き抜けた風と
第2話

 蒸し暑い深夜の人もまばらな駅前で、まるで風のような音色に導かれ、ネオンや街灯をスポットライトのようにしてギターを奏でている少年に出会った。
その指が奏でるメロディに身を任せているうちにわたしは、自分の身体と自分の感覚が切り離されてしまったかのような、不思議な感覚に陥った。
 ギターをはじく手を止めた彼は顔を上げ、彼の前に立ちつくしているわたしに怪訝そうな瞳を向けて、
「あの……なにか?」
と尋ねた。
 けれどわたしは、さっきまで飲んでいたお酒と、耳に流れていた彼が奏でていたギターの音色に酔っていて、そんな怪訝そうな表情にはまったく気づかず、ただ単純に声を掛けてくれたことがうれしくて、しゃがみこんで興奮気味に彼に話しかけた。
「ギターって、こんな音色も出るんだね。最初ね、風の音かと思ったの。スゴイね。
驚いちゃった。ちょっとカンドウしちゃったよ。いつもここで弾いてるの? 誰の曲?」
 一気にまくし立てたわたしの手放しのほめ殺しに、その怪訝な表情は、少し照れたような、とまどいの混じった表情に変わった。
 そして、ポツリポツリと、家だとなかなか弾けないので、週に1度くらいはここに来て弾いていると言うこととか、弾いているのは自分で創ったオリジナルの曲だと言うことなんかを、ちょっとかすれた優しい声で話してくれた。はじめの怪訝さが嘘のように、しつこいくらいのわたしの質問攻めにもイヤな顔ひとつせず、リクエストに応えて何曲か弾いたりもしてくれた。
 気が付くと、始発の時間が近づいたのか、駅に電気が灯った。そのくらい、時間を忘れるくらい、初対面だったことすら忘れるくらい、わたしたちは夢中になって、そこでしゃべっていたのだ。
帰りぎわ、じゃあ、と言ってから気付いて振り返る。
「名前、聞いてなかったよね? わたしはミハル。きみは?」
「サトル」
「サトル…。また、聴きに来ても良い?」
「ぜひ」
 そう言ったときのサトルの笑顔があまりにもすがすがしくて、やさしくて、徐々に白んでくる空の下、わたしは少し、泣きそうな気分だった。

* * *

 待ち合わせの木の下で、わたしに向かって手を振る人の姿を見つけると、胸が締め付けられる。
 ゆっくりなんて歩いていられなくて、その木の方へと、思わず駆け出した。
 弾む息と、高鳴る鼓動。
 その人の前にたどりついて、顔を見上げるけれどハッキリと顔が分からない。
 でもわたしは知っている。
 その人が、自分の最愛の人なのだと。
 
 目が覚めた時には全てを、忘れてしまっていたとしても……








 

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